人はなにに価値を感じるのか。
どんなものを欲しくなり、なににお金を使うのか。そんな問いを自然と考えさせられるようなものに今週、出会った。
やっぱり、知らないことを知るのはたのしい。それだけでなく、人間味というか、人の矛盾というか、奥深さのようなものを感じるのはなんともおもしろい。
今週は、ぼくの感じた「おもしろさ」を少しでも伝えられたらと思う。
ビカクシダという植物
今週、静岡県掛川市にある「OZMAN」という植物園(植物販売もしている)を訪れた。なにがおもしろかったかというと、そこで販売している「ビカクシダ(麋角羊歯)」という植物の存在である。
◯レタスに角が生えたような植物?

壁にかかっているのがは大人のビカクシダ。つまり大人株である。レタスから角が生えたようなその姿は壁にかかった鹿の剥製をイメージさせる。とはいえ、大人のビカクシダは販売されていない。これは「大きくなったらこうなりますよ」という見本である。
実際に販売されているのはまだ小さな子どものビカクシダ。子株である。

この子株、値段もまあまあする。安いもので1万円弱。高いものでは4万円ほどする。ではこの値段(価値)の違いはなにから生じるのか。てっきり形や大きさで値段が決まるかと思っていたらどうやら違うのである。
値段を決める最大の要因、それは「名前(タグ)」である。
なぜ名前(タグ)で値段が変わるのか。それはこのビカクシダについて少し知る必要がある。
ビカクシダの“価値”を決めるもの
ここからは、店長の赤堀さんの説明をもとに、ぼくの解釈で書いているものです(もし間違っていたら、それはぼくの理解力の問題です)。
同じ種類でも「形(個性)」がまるで違う
ビカクシダの原種と呼ばれるものは18種類ある。原種によって形は異なるし、同じ原種であっても個性が異なる。根本の葉っぱが大きいもの、尖っているもの。角が上向きのもの、垂れ下がっているもの、くるっと丸まっているもの。種類による違いもあるが、同じ種類のものであってもその形状や表現が大きく変わるのである。

”良い個体”には、個別の名前がつく
ビカクシダは品種をかけ合わせたり、または同じものでも突然変異などで形状が変わる。その中でも、人間が“良い”と思うものには新しい個別の名前がつけられる。ビカクシダの種類は馬でいうサラブレッドであり、その中でも良いと思うもににはサラブレッドでいうところの「オグリキャップ」「トーカイテイオー」「ディープインパクト」のような個別の名前がつけられるというのだ。

植物なので長生き、さらにクローン(分身)ができる
ビカクシダは動物と違い長生きである。そして自分自身と同じDNAをもつクローンを自然につくる。クローンは親とまったく同じDNAのため、同じ形になる可能性が高く価値も高い。一方で、「胞子」から育つ子はDNAが異なり、価値が下がる。ただし、親よりもかっこよくなる可能性もあり、その場合は価値が高くなる。

子株の見た目では大きくなったときの姿が想像できない
プロであっても、子株から育って大きくなったときの姿を想像するのは難しい。子株のときにはまだ個性が出ていないのだ。
つまりこれは、子株を見て親株を断定するのも難しいうことだ。そこで大事になるのが、どの親株からどのように生まれたのかを追跡できるタグである。タグが血統書のような保証書の役割になる。だからタグで値段が決まるのである。
もしタグが外れて追跡が途切れてしまった場合、その価値は低くなってしまう。お店の人でも、子株がどの親株から生まれたのかを断定するのは難しい。

お店の信用が価値を支える
そしてこのタグの信用性は、お店の信用でも決まる。お店がどのような親株を持っているか、栽培はできるのか、実績はあるのか。お店の信用により子株の価値も変わるのである。
まとめ:価値を生むのは“見えないもの”
ビカクシダの子株の値段はなにで決まるのか。
その答えは「どの親からどのように生まれたのか」である。ただし子株の見た目ではそれがわからないから「タグ」が必要になるのである。
また、価値はその「タグ」を保証するお店の信用度も大きく関わっている。お店が信用できるほど値段は高くなるのである。
血筋(DNA)や育てることで価値がでるのはサラブレッド(競馬)のようであり、同じ名前のものでも突然変異や希少な変化が出るのはポケモン(色違い)のようでもあり、お店の信用が価値を決めるのはお金のようでもあり、追跡できることで価値が生まれるのはNFTのようでもある。
ビカクシダというひとつの植物をどう捉えるのか、これだけでも人間のおもしろさが詰まっている気がするのだ。
人はなにに価値を見出すのか
日本の戦国時代、戦の褒美に茶器が使われたと聞いたとき「え、命をかけた褒美が食器なの!?」と驚いたけど、人がなにに価値を感じるかは、その時代の価値観に大きく左右されるものである。
作家でありコンサルタントである山口周さんは、著書『ニュータイプの時代』で、「役に立つ」から「意味がある」へ価値の基準がシフトしている、と書いている。
この先AIはどんどん「役に立つ」ものになっていくし、AIそのものが「役に立つ」ものを生み出していくことになるだろう。「役に立つ」ものは、人が時間を使わずに生み出せる未来がくるのかもしれない。
人がなにに価値を感じるのか。どんなものに意味を求めて、欲しくなるのか。人間って、おもしろいですね。
店長の説明を聞いていると、徐々にビカクシダに興味を持ち始めるから不思議なものです。
