少し前に、ある人と話したときのこと。

その人は、転職前後で住んでいるアパートは変えていないと言う。曰く

「自然もあるし、終着駅だし、電車に乗れば都心にも行きやすい。もう、ここ以外に住めないんですよ!」

とのことだった。

「もうここ以外住めない」

その気持ちすごくわかる。

また、ある人は、

「近くに公園もあるし、会社にも行きやすい。家賃も安い。もう8年以上住んでいるし、引越しも考えていない」

という。

さらに別の人は、

「会社まで徒歩で行ける。都心なのに家賃も安い。ここ以外は考えられない」

とのこと。

かくいう自分も、

「隣に川があって、その川では蛍が見れる。松本駅までは歩いて10分。日当たりもいいし、山の見える景色もいい。こんな掘り出し物みたいな物件は他にない」

と思っていた。

こんなにもみんな、自分の好みにぴったりの物件に住んでいるものなのだろうか。引越しなんて人生で何十回もするものでもないし、数回の引越しだけで、自分の好みにドンピシャの物件へたどり着けるとは思えない。

どちらかというと、住んだ後に、その物件や地域を好きになっているのではないだろうか。

なぜ人は、自分が住んでいる場所や家を好きになるのか。

もちろん、これまでの人生のなかで、どうしても好きになれない物件もあった。道路がうるさい。隣の家の声が丸聞こえ。虫が出る。

ただ、そうした「どうしても許せない欠点」さえ避けられれば、人は住んでいる場所を好きになっていくのではないか。

「住めば都」という言葉がある。

この言葉の真意は、場所の良し悪しを指すのではなく、「自分には、身の回りにあるものを好きになる力がある」ということではないだろうか。

そしてその力は、土地や場所、モノに対してだけではなく、人に対しても同じことが言えるのかもしれない。

***

新しい家に住み始めて2週間。ぼくは早くも、この場所を好きになりかけている。

駅が近くて、電車を“自分の足”の感覚で使えること。

飲食店が多く、お店の探索が楽しみなこと。

窓からの景色がよく、運が良ければ富士山が見えること。

多摩川まで走っていける距離感。

自分の生活スタイル(家で仕事をすること)に合った間取り。

徒歩1分のスーパーでお昼にお弁当を買える手軽さ。

住めば都。

また引越ししても、きっと大丈夫だと思いつつ、

このいま見えている部屋の中の光景や、窓から見える景色も、いつか懐かしく思い出す日が来るのだろうかと、ちょっぴりさみしくも思っている。