このコラムについて
光学技術者が、カメラや光学技術に関する疑問にお答えします。原理を知るから、「もっとこうしたらいいんじゃない」とアイデアが出てくる。アイデアが出るからおもしろくなる。原理はおもしろさにつながっていると感じてもらえたらうれしいです。
- ・照度とはどういうものかわかる
- ・輝度とはどういうものかわかる
- ・照度と輝度の違いがわかる
- ・目は輝度計であることがわかる
なんで星は地球を照らせないほどの光なのに目には見えるの?
夜、田舎などの街の明かりがない地域に行くと、びっくりするくらい暗いですよね。月が出ていなければ、なにも見えないくらい真っ暗です。昔の人はどうしていたんだろうかと思います。
そんななか、夜空を見上げると星がびっしり光っています。こんなにも星があったのかと驚きます。感動するほどの景色です。
でもどうして、星の光は地球を照らさない(明るくしない)のに、星は見えるのでしょうか。
今回は、人間の目が見ている光について、光学の観点から説明します。
答え:目は輝度計だから
いきなり答えを言うと、目は輝度計だから、です。
この問いのポイントは照度と輝度の違いにあります。照度や輝度は聞き慣れないことばだと思います。照度とはなにか。輝度とはなにか。照度と輝度の違い。それぞれについて解説していきますね。
これから述べることを要点にまとめると以下になります。
・照度は距離に関係する
・輝度は距離に関係ない
・目は輝度計である
照度とはなにか
照度とは、物体を光で照らしている度合いのことをいいます。
ここでのポイントは、照度は光源と物体の距離が離れるほど小さくなることです。
たとえば、勉強しているとき。手元を明るくするためには勉強机についている電灯を付けます。部屋の電灯ではなく、勉強机の電灯を付けるのは、照らしたい物体(手元のノートなど)と光源(電灯)が近いからです。遠くにある電灯を付けても手元は明るくなりにくいですよね。
物理を勉強したことがある人は、光は距離の2乗で弱くなっていくことを知っていると思います。距離が2倍になれば、光の強さは4分の1になるということ。もっと具体的に言うと、距離が10のときに光の強度が10だったとき、距離が20になると光の強度は2.5になるのです。
つまり照度とは、光源と物体の距離に関係するのです。
輝度とはなにか
では輝度とはなにか。輝度とは、物体が輝いている度合いのことをいいます。
ここでのポイントは、輝度は距離に依らない、ということです。
輝度は「その物体がどのくらい輝いているか」を数字に置き換えたもので、テレビなどのディスプレイがどのくらい明るいかの指標に使われます。テレビの明るさが見る距離によって変わるなら、輝度という指標は使えません。「輝き」は距離に関係ありませんよね。
照度と輝度の違い
さて、ここまで来れば照度と輝度の違いが少しわかってきたのではないでしょうか。照度と輝度の違いをまとめると以下のようになります。
照度とは、「どのくら照らしているか」を示したもの。光源と物体の距離に依存する。
輝度とは、「どのくらい輝いているか」を示したもの。距離に依存しない。
まずはここを理解してもらえればオッケーです。
目は照度と輝度のどちらを見ているのか
では、目は照度と輝度のどちらを見ているのか。
結論から言うと、目は輝度を観測しています。照度ではないのです。以下の写真を見てみましょう。(目と写真は同じです)
街灯の場合
夜の道が街灯に照らされています。近くの街灯も遠くの街灯も同じような明るさで写っています。また、街頭に照らされた道についても、近くでも遠くでも同じような明るさで写っています。つまりカメラ(目)との距離に関係なく明るさを観測していることになります。
これを簡単な図にすると以下のようになります。
目は、光っている街灯を直接見ていますし、街灯によって照らされて反射している道も見ています。道は直接光っているわけではありません。「輝度(輝いている度合い)」と言われると違和感があるかもしれませんが、目にとっては、直接光っているか、照らされて反射しているかは判別できません。つまり目は、直接光っている街灯と、街灯によって照らされている道の両方を「輝度」として観測しているのです。
星の場合
では星の場合はどうなっているでしょうか。図にすると以下のようになります。
星の場合、星と地球の距離が遠すぎて、星は地球をほぼ照らせていません。なので星が出ていても夜は真っ暗なのです。一方で星を直接見る場合、目と星の距離は関係ないので、星は見ることができます。
つまり、目は輝度を観測しているため、星が地球を照らしていなくても、星が見えるのです。
目に入る光の量
物が遠くなると、目に入る光の角度幅が小さくなるので、目に入る光の量が少なくなるはず。だったら距離が離れたほうが目に見える光は暗くなるのではないか。そう思う人もいるかもしれません。
たしかにその通りです。物体(光源や光に照らされたもの)が遠くにあるほど、目が取り込める光の角度幅が小さくなるため、目に入る光の量は少なくなります。
ではなぜ輝度は距離に関係ないのか。
それは、網膜にできる像の面積(大きさ)が変わるからです。
遠くにある物体のほうが小さく見えます。つまり像は小さくなります。距離が2倍離れると面積は4分の1になります。つまり、目に入る光の量は減るものの、面積が小さくなるため、網膜にできる像の光密度は変わらないということです。ちょうど相殺されるんですね。
以下の写真は長野県の風景です。田んぼが広がっているのが見えます。
遠くの稲の距離は手前の稲の距離よりも10倍くらい離れていますが、遠くの稲の緑が100分の1の明るさに見えることなんてないですよね。その代わりものすごく小さくなってます。
このことからも、目が輝度を観測していることがわかりますよね。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
まとめると以下のようになります。
- 照度とは照らしている度合いのことで、距離が離れると弱くなる。
- 輝度とは輝いている度合いのことで、距離に関係ない。
- 目は輝度計である。
- だから星の光が地球にほとんど届かなくても星は見える。
どうして星が見えるのか、理由がわかってもらえたらうれしいです。