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【光学】なんで一眼レフを持っている人は「単焦点レンズ」を使うの?

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この記事を読むと得られるもの
  • 単焦点レンズの長所と短所が理解できます。
  • 写真好きの人が単焦点レンズを選ぶ理由がわかります。

このコラムについて

光学技術者が、カメラや光学技術に関する疑問にお答えします。原理を知るから、「もっとこうしたらいいんじゃない」とアイデアが出てくる。アイデアが出るからおもしろくなる。原理はおもしろさにつながっていると感じてもらえたらうれしいです。

なんで一眼カメラを持っている人は「単焦点レンズ」を使う人が多いの?

いきなり答えを言ってしまうと、単焦点レンズを使うと、背景がよくぼやけたきれいな写真が撮れるからです。たとえば、以下のような写真が撮れます。

じゃあなんで単焦点レンズだと背景がぼやけたきれいな写真が撮れるのでしょうか。じつは、単焦点レンズは「武士」のようなレンズだからです。

いや、武士って

「単焦点レンズは武士」と言われても、よくわからないですよね。なので、今回は単焦点レンズだとなぜきれいに撮れるのか、なぜ武士なのか、について光学的に解説したいと思います。

記事の要約
  • 単焦点レンズとは、ズーム機能のないレンズ
  • 単焦点レンズは、F値が小さいため背景がぼやけやすい
  • 単焦点レンズは、ズーム機能をすてた代わりにF値を小さくできている
  • 単焦点レンズは、不便だけど撮れる写真の質がいい

単焦点レンズとは

単焦点レンズってなに?

カメラのレンズは大きく2つに分類できます。ひとつはズームレンズ。もうひとつが単焦点レンズです。

ズームレンズとは、ズームリングを回すことで撮影範囲の拡大や縮小ができるレンズのことです。

一方、単焦点レンズとは、撮影範囲の拡大や縮小の機能がない(ズーム機能がない)レンズのことです。

単焦点レンズのデメリット

ズームがないと、なにが不便なの?

単焦点レンズはズーム機能のないレンズのため、被写体(撮影したいもの)を大きく写すときにはカメラを被写体に近づける必要があります。また、被写体全体を写したいときには、カメラを被写体から離さないといけません。

つまり、ズームレンズを使った場合には手元の操作で拡大や縮小していたものが、単焦点レンズを使った場合には、カメラを持った自分が移動しなければいけません。そういう意味で、単焦点レンズは少し不便なレンズとも言えます。

単焦点レンズのメリットとデメリット

不便であるにもかかわらず単焦点レンズを使う理由は、先ほども述べたように背景がぼやけたきれいな写真が撮れるからです。そもそも一眼カメラを使う理由は、背景のボヤけたきれいな写真を撮るため、の方が多いと思います。その背景のぼやけが単焦点レンズを使うとさらに際立ち、よりきれいな写真が撮れるんですね。

単焦点レンズのメリットとデメリットをまとめると以下のとおりです。

メリット

背景のぼやけたキレイな写真が撮れる

デメリット

ズーム機能がないので、被写体との距離を、自分が移動して調整する必要がある

では、単焦点レンズを使うと背景がよくぼやけるのはなぜでしょうか。「背景のぼやけ」には、カメラレンズの「F値(えふち)」が関わっています。原理を理解するにはF値とはなにかを知っておく必要がありますね。次の章では、F値について説明します。

F値とぼやけの関係

F値とは

F値(えふち)ってなに?

F値とは、レンズの明るさ(開口)の指標とされていて、正確に言えば、「センサーに集光する光の角度」に関係する数値です。ここでややこしいのは、F値が大きいと集光角度は小さく、F値が小さいと集光角度は大きいということです。計算式は以下のようになります。

このF値を操作するのがレンズについている絞りです。絞り度合いを変えることでF値を制御しています。絞りを絞るほどF値は大きくなりますし、絞りを開けるほどF値は小さくなります。

単焦点レンズで背景がぼやける理由は、単焦点レンズのF値が小さいからです。F値が小さいと、レンズの開口径が大きくなり、センサーに入射する光の集光角度が大きくなります。

では、この集光角度が「ぼやけ」にどう影響しているのでしょうか。

F値とぼやけ

F値がどう「ぼやけ」に影響しているの?

下の図は、F値が大きいときとF値が小さいときの光線の様子を示した図です。例えばピントが合っていないとき、F値が大きいと(つまり光の集光角度が小さいと)、センサー上での光の広がりが小さくて、ぼやけは小さくなります。一方で、F値が小さいと(つまり集光角度が大きいと)、センサ上での光の広がりが大きくて、ぼやけは大きくなります。これがF値が「ぼやけ」に影響する理由です。

単焦点レンズは、このF値が小さく(つまり集光角度が大きく)できるので、背景がボヤケやすくなるんです。計算上、F値が半分になると、ぼやけは2倍になります。上の図の例では、ズームレンズのF値が4.5、単焦点レンズのF値が2.0のため、単焦点レンズのぼやけは、ズームレンズのぼやけより2倍以上大きくなります。

なぜ、単焦点レンズはF値が小さい?

なんで単焦点レンズだけF値が小さいの?
ズームレンズもF値を小さくすればいいんじゃない?

たしかにそう思いますよね。単焦点レンズのF値を小さくできる理由を説明する前に、カメラレンズの中身について説明する必要があります。

カメラレンズは複数枚のレンズからできている

カメラレンズの中にはレンズが複数枚入っています。実はレンズ1枚じゃないんですね。例えばこんな感じです。

カメラレンズによって異なりますが、通常内部のレンズは6枚から十数枚のレンズが入っています。ではなぜ、複数枚のレンズが必要なのでしょうか? 

複数枚のレンズで構成される理由

カメラレンズの内部にレンズが複数枚ある理由、それはレンズ1枚ではいくつかの問題が生じてしまうからです。その問題は下記の3つです。

  1. レンズ1枚だと、ピントを合わせてもくっきりと写らない
  2. レンズ1枚だと、F値を小さくできない
  3. レンズ1枚だと、ズームができない

それぞれ解説します。

① レンズ1枚だと、ピントを合わせてもくっきりと写らない

レンズ1枚だけでは、光の集光性能(解像力)が悪くて、レンズに入射した光が一点に集光しません。そのため、レンズ1枚ではピントを合わせても全体がぼやけた写真しか撮れなくなってしまいます。これを解決するために、複数枚のレンズを使って、集光性能(解像力)を高めています。

② レンズ1枚だと、F値を小さくできない

これは①と似ていますが、レンズの端付近を通る光の集光性能は特に悪く、F値を小さくすると(開口を広げると)集光性能を悪化させる原因になっています。このレンズ端付近を通る光の集光性能をあげるためにも、レンズが複数枚必要になります。つまり、F値を小さくするために、レンズが複数枚必要なんですね。

③ ズームできない

ズームは、カメラレンズの内部のレンズを動かすことで、カメラレンズ全体としての焦点距離を変えるものです。レンズ1枚だと、レンズをいくら動かしても焦点距離を変えられないため、ズームができません。そのためズーム機能にはレンズが複数枚、必要になります。

以下の図はカメラレンズのズームリングを回したときに内部のレンズが動く様子を現しています。ズーム機能は、内部のレンズが複雑に動くことで実現しているんですね。

以上の理由から(細かいことを言えばもっと理由はありますが)、カメラレンズな内部にはレンズが複数枚使われています。そして複数枚のレンズで構成されたカメラレンズを精密に組み立てるには、高度な技術が必要にまります。だからカメラレンズって高価なんですね。

レンズ枚数とレンズ性能

では、最適なレンズ枚数はどのくらいでしょうか?

実は原理的にはレンズ枚数を増やすほど、解像力が高く、F値を小さく、ズーム機能もつけたレンズを設計することは可能です。でも、 レンズ枚数が多いほど高価なレンズになってしまいます。 だから、価格と性能のバランスをとる必要があります。

RPGのゲームで、レベルが上がるとキャラクターステータスを割り振りできるものがありますよね。カメラレンズもこれと同じイメージです。レンズ枚数のぶんだけ、ステータス(レンズ性能)の割り振りができるようになります。カメラレンズは、必要最低限のレンズ枚数で必要な性能を満たすように設計されているんです。

各レンズの性能イメージ

レンズの性能を、RPGのキャラステータスのように表すと以下のようになります。

ズームレンズはレンズの能力をズームに割り振っているので、F値は大きくなってしまっています。一方で、レンズの能力をF値を小さくするために使ったのが単焦点レンズです。単焦点レンズは、ズーム機能と引き換えにF値を小さくしているんですね。

また、レンズ枚数を増やし、F値も小さくしつつズーム機能もつけたのが、高級ズームレンズです。価格はひと桁違います。価格は生産数量の影響を受けるので、価格が高いのはレンズ枚数が多いことだけが原因ではありませが、それにしても高いですよね。にもかかわらず、F値は単焦点レンズのほうが小さくできています。つまり、写真としての質は、いちばん単焦点レンズが高いんですね。

単焦点レンズは「武士」である

単焦点レンズは、ズームができない不便さはあるものの、撮れる写真の質はいちばんいい。この単焦点レンズの特徴が、「不器用だけど間合いさえ合えば実力を発揮できる武士」のように思えませんか。以上が冒頭で、「単焦点レンズは武士」と言った理由です。単焦点レンズ、かっこいいと思いませんか?

まとめ

まとめです。

まとめ
  • 単焦点レンズとは、ズーム機能のないレンズ
  • 単焦点レンズは、F値が小さいため背景がぼやけやすい
  • 単焦点レンズは、ズーム機能をすてた代わりにF値を小さくできている
  • 単焦点レンズは、不便だけど撮れる写真の質がいい

単焦点レンズは、ズーム機能をすてた代わりにF値を小さくできて、背景のぼやけたきれいな写真が撮れるようにしたレンズなんですね。適切な距離で撮影するのは面倒ではありますが、撮れる写真の質はいいんです。だから、一眼カメラを持っている人は単焦点レンズを使う人が多いんですね。

もし一眼カメラを持っている方は、単焦点レンズをひとつ持っておいても良いと思いますよ。撮れる写真の質が上がると、写真を撮るのが楽しくなります。ヤフオクやメルカリなど、中古でも売っているのでぜひ検討してみてくださいね。