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【今週の気づき/188】ニャンとかなる

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東京は思ったほど暑くなかった。

新宿駅で特急あずさを降り、総武線に乗り換える。飯田橋駅で降り、神楽坂を登る。再就職の面接を受ける企業に、向かっているところだ。

かなりの暑さを覚悟していたけど、気が滅入るほどの暑さではない。曇り空で気温は30度ほどだろうか。半袖のワイシャツにノーネクタイ。ジャケットは手に抱え、パソコンの入ったバックパックを背負っている。この格好であれば、汗をさほどかかずに歩いていける。先週だったらワイシャツもバックパックも汗でベタベタだっただろう。

時間に余裕を持って移動したため、指定された時間の50分前に会社についた。時間を潰しつつ、ネクタイを締めるため、カフェを探す。ちょうど近くに個人経営のカフェがあり、そこに入った。店内にお客さんは誰もいない。60代くらいの女性が明るく出迎えてくれた。

「いつもはパウンドケーキなんだけど、今日はラスクにしたの」

焼き立てだろうか、オーブントレーに乗ったラスクをトングで並べながら店主の女性は言う。

それじゃあ、とぼくはアイスティーとラスクを注文した。

席につき、さてどうしたものかと店内を見回すと、猫に関するグッズの多さに気がつく。猫の本。猫の置き物。猫のぬいぐるみ。猫の絵。猫だらけである。

「猫がお好きなんですか?」

店主に訊くと、店主はうれしそうに話してくれた。

「そうなの、猫が好きで、猫だらけでしょ。猫派ですか? 犬派ですか?」

「ぼくは犬派ですね。実家で犬を飼っていたこともあって」

「猫好きと犬好きっているじゃない、猫好きはどんな猫でも好き。野良でもなんでも。でも犬派っていうひとは犬が好きっていうよりその犬種好きなのよね」

確かに。猫好きの人は、猫を見かけるとすぐに近づこうとするが、そういうことだったのか。

お店についても聞いてみる。

「このお店は長いんですか?」

「2006年から。『最近できたのですか?』って聞かれることもあるけど、もうけっこう長いのよ」

「20年くらいやってるんですね、すごい」

「でも、午後からしかやってないから10年みたいなものよ、午前中は他の仕事をしていてね」

「どんな仕事してるんですか?」

「ファッションの先生。そっちはもう20年以上。以前はランチをやっていたこともあったんだけど、授業が終わるのが12時過ぎで。ランチできる曜日とできない曜日があって。そのことをブログで『あの店はだめだ』と書かれたこともあるのよ。だからいまはランチをやめちゃった。最近は先生の仕事も抑えてきたから秋くらいからランチを再開しようと思ってるのよ。今日はお仕事で?」

「実は今日転職の面接なんですよ。すぐそこの会社で。いまは長野県に住んでいて」

「あら、長野県はよく行くのよ。飯田に夏季の集中講座で。昔は月に一度日帰りで行ってたんだけど、さすがに体がもたなくてね。夏季の集中講座にしてもらったの」

思わぬところで長野の話題になり、親近感が一気に湧く。

ぼくは今の自分の状況を話す。3年前に会社を辞めていまはフリーランスでいること。いまから面接を受ける会社の事業内容。なぜその企業を受けるのか。

「面接うまくいくといいわね」

話しているうちに面接10分前になった。席を立ち、トイレでネクタイを締める。

「お店18時までですよね。面接は18時までなので、少し早く終わったらまた顔出しますね」

面接は和やかに好印象で終わったと思う。会社を出たときは18時3分。顔を出そうとお店の前に立つと、お店全体を覆うようにシャッターが閉まっていた。「早っ」と心のなかでツッコミを入れつつ、「本当にここにカフェなんてあったのだろうか」という思いにかられる。

転機だから人に会う

ぼくはいま、人生の転機と呼べる時期にいるのかもしれない。どっちの選択がいいのかと、更新される情報のなかで迷いが生じている。個人での仕事が増えそうになれば、もっと個人で仕事をするのもいいかなと思い、面接が好感触であれば企業で働くのもいいと考える。少しの情報で揺れる状態にある。

迷いの中にいると、どうしても視野が狭くなる。これまでの自分の価値観でしか考えられなくなる。AかBかの2択しかないと考えてしまう。

でも実は、世の中には自分が考える以上に選択肢があるのかもしれない。講師をしながらカフェを経営したり、夏場だけ別の地域に住んでみたり。人は思っているよりも自由であり、世の中は思っているよりも融通がきくのかもしれない。

迷いがあるときほど、初めて会う人の話を聞いてみるのがいい。人の人生に触れると、自分には見えていなかった選択肢がそこにあることに気がつける。世の中には色んな人がいる。大変ではあるけれど、みんなそれなりに生きている。

人生はニャンとかなるのである。

転機のなかにいるからこそ、何気ないことがらを残そうと、書いてみました。


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