このコラムについて
小さなビジネス開業スクール(BFS)。この場所で生まれたビジネスを紹介します。どんな人が開業したのか、なぜその事業が生まれたのか、これらを大谷信の目線で紐解き、得た学びを書き記していきます。あなたのビジネスにもきっと役に立つ、そんなコラムです。
子供に幸せになってもらいたい。
ほとんどの親はそう願うのではないだろうか。けれど幸せになってほしいからこそ、子供の将来を心配せずにはいられない。そんな思いから、つい子供に口うるさく言ってしまう。ましてや、通うのが当たり前だと思っていた学校に子供が通えなくなったとき、子供の将来への不安から、子供にきつくあたってしまう場面もあるのかもしれない。
子供に幸せになってもらいたい。
それは嘘いつわりのない想いだ。しかし、その幸せとはいつのことだろう。今の幸せなのか、将来の幸せなのか。もし将来の幸せのことであれば、そのために今の幸せを犠牲にしてもいいのだろうか。今を犠牲にすることなく、今も将来も、子供を幸せにする方法なんてあるのだろうか。
2021年11月、栃尾江美さんが『ゲームdeコーチング』というサービスをはじめた。栃尾さんには11歳と8歳の2人のお子さんがいる。2人は2017年から不登校だという。子供たちの不登校と向きあい続け、数しれない試行錯誤を経験したなかで、やっとの思いで我が子に合うものを見つけ、それを事業化したものが『ゲームdeコーチング』だ。
「子供の今も将来も幸せにする」
そう決めている栃尾さんがはじめたサービス、『ゲームdeコーチング』を、今回は紹介したい。
栃尾江美という人
背中にそっと手をあててくれる人
栃尾さんをひとことで表すと「背中にそっと手を当て、力づけてくれる人」である。
たとえばよく「背中を押す」という表現がある。やりたいことがあっても今ひとつ最初の一歩が踏み出せない。新しいことに挑戦する勇気が持てない。そんなときに「やっちゃいなよ」とか「これやったほうがいいよ」と、あと押ししてくれる人がいる。
しかし、栃尾さんの場合、「背中を押す」とは少し違う。背中を押して一歩踏み出させるのではなく、相手が自ら一歩踏み出せるよう力づけ、見守ってくれる。「あなたには才能も力もあるから大丈夫」と背中に手をあて、踏み出すのを待っていてくれる人なのだ。いったいどういうことか、栃尾さんと僕の接点から説明したい。
「書く才能があります」
アウトプット研究家であり、ライターでもある栃尾さんが提供する「アウトプット相談」を僕が受けたときのことだ。当時の僕の発信経験といえば、子供が保育園のときにいくつか書いた保育園だよりの保護者欄くらいだった。相談当日は、それらを持っていき、栃尾さんに見てもらいながら話をした。わずか400字くらいの文章を悩み苦しみながら書いたものだけど、自分ではけっこう気に入っている文章だ。
「自分でもいいこと書いてるなと思って、たまに読み返すんですよ」
自嘲気味に言った僕に、栃尾さんは言ってくれた。
「自分の書いた文章を好きになれる人は、書く才能があります! 持論だけどね」
少し身構えていた僕にとって、意外な反応だった。素人が書いた文章にダメ出しをするのでもなく、改善点を伝えるのでもない。足りないところを指摘せずに、「才能がある」と言ってくれたのだ。「あなたはもう、持っていますよ」と。「きっと、大丈夫ですよ」と。断言とも言えるほどの力強い言葉が印象に残っている。そしてこの言葉が今でも、何か文章を書く際の僕の支えになっている。
また、栃尾さんは相談の最後には相手への気づかいも忘れない。どんな発信がしたいのかをヒアリングし、そのためにどんな発信方法があるのかを伝えたあと、こちらを思いやる言葉をかけてくれた。
「すぐに発信できなくても、私に悪いとか、申し訳ないとか、思わないでくださいね」
発信の魅力を知っていると同時に、発信の大変さも知っている。だからこそ、自分のタイミングで発信を始めてほしいというのだ。
「あなたには才能がある。こんな道もあるし、あんなこともできる。あなたは一歩踏み出す力をすでに持っている。だから自分のタイミングで踏み出せばいい」
言葉や態度でそう伝えてくれる。栃尾さんとは、そういう人なのだ。
ゲームdeコーチング
栃尾さんがはじめた新サービス『ゲームdeコーチング』は、そんな栃尾さんを体現したようなサービスだ。子供の背中にそっと手を当てて、「そのままの君でじゅうぶん素敵だ」と、声をかけるような時間をつくりだしている。
ゲームdeコーチングとは
『ゲームdeコーチング』では子供とメンターの大学生がオンラインで一緒にゲームをする。そして、ゲームをしている50分間のなかでの会話や子供のふるまいをレポートとして保護者に提出する。50分間のゲーム時間と、レポートがサービスの主な内容だ。
じつは僕の息子(小3)も『ゲームdeコーチング』を受けている。息子はなんとなく学校に疲れ、週に1日くらい学校を休む時期が続いていた。しかし、『ゲームdeコーチング』を始めた今では「ゲームdeコーチングがあるから1週間頑張れる」と言い、ほとんど休まず学校に通っている。週1回、メンターの大学生とゲームをすることが、彼のなかで活力になっている。
「子供と大学生がゲームしているだけでは?」
そう思うかもしれない。しかし、『ゲームdeコーチング』にはひとつ仕掛けがある。それは、大学生から子供にはなにも教えないこと。むしろ、子供から大学生にゲームを教えるのを基本としていることだ。子供が得意なゲームの世界だからこそ、子供が主体となって大学生とゲームを進めていける。
子供からすれば大人と思える大学生に、ゲームを教えたり、助けてあげたり、大人の役に立つ経験をする。大人と対等に関われることを学び、自信をつけ、協力する喜びを知る。協力関係が築けるから「ありがとう」と「ごめん」が自然と言いあえる環境がつくられる。そしてそのような環境のなか、子供が主体となれるから、子供の素質がそのまま現れる。
あるものに着目する
ゲーム終了後に保護者宛に送られてくるレポートでは、ゲームをするなかで自然と出た子供のふるまいから、子供が本来持っている素質が伝わってくる。
武器や防具をメンターさんに準備してあげる、面倒見のよさ。
建てた家にメンターさんの名前と誕生日を刻印してあげる、サービス精神。
ゲームのなかで新しい遊びを提案する、発想力と提案力。
子供の言動が文字となることで、普段は見過ごしてしまいがちな子供の素質が読み取れるのだ。「これってもしかしたら、この子の原石かもしれない」そう思えてくる。
親であれば、子供を愛しているからこそ、子供の将来を心配してしまう。将来のために、なにか役に立ちそうなもの身に着けてほしいと、思ってしまう。塾や習い事。学力向上にスキルアップ。たしかに、これらは役に立つものだろう。しかし、能力を得なければ、スキルを向上させなければ、役立たずというわけではない。そのままの自分でも、本当はじゅうぶんに誰かの役に立てるのだ。
『ゲームdeコーチング』では、足りないものを身につけるのではなく、ゲームをするなかで顕在化した子供の光るものに着目する。「もうすでにあなたには才能も力もある」そう気づかせてくれる。
そのままの自分で人の役に立てる経験。
そのままの自分で大人と関係がつくれる体験。
そのままの自分で大丈夫なのだという自信。
変化の大きい時代のなかで、これらが確固たる軸となり、子供の将来の宝物になる。生きる力になる。
そのままの自分でいいことを知っているから、今を幸せに生きられる。そのままの自分を安心して表現できるから、素質が磨かれる。それがきっと、将来の幸せにもつながっている。
『ゲームdeコーチング』とは、子供の今も将来も幸せにすると決め、そして、子供の素質を信じ続けてきたひとりの女性の願いによって、生まれたサービスなのだ。