このコラムについて
光学技術者が、カメラや光学技術に関する疑問にお答えします。原理を知るから、「もっとこうしたらいいんじゃない」とアイデアが出てくる。アイデアが出るからおもしろくなる。原理はおもしろさにつながっていると感じてもらえたらうれしいです。
なんで一眼レフの写真はきれいなの?
一眼レフやミラーレス一眼などの「一眼カメラ」で撮影した写真はきれいにみえますよね。ぼくも初めて一眼レフを使ったときには、自分のカメラの腕が上がったのかと勘違いするくらい、きれいな写真が撮れてびっくりしました。きれいな写真が撮れると、写真を撮るのが楽しくなって、いろいろなものをパシャパシャと撮影したものです。なぜ、一眼カメラの写真はきれいに見えるのでしょうか?
きれいに見えるひとつの要因は「背景がぼやけること」です。上の写真でも、背景となっている木がぼやけているから、手前のもみじが際立って見えますね。
このような写真は、“立体感のある写真“なんて言われることもあります。写したい対象の背景がぼやけると、対象がくっきりと浮き出るように見えて、きれいな写真になるんですね。
では、背景のぼやけた写真は、スマホでは撮影できないのでしょうか。じつは光学の原理から考えると、スマホカメラでは一眼カメラのような背景のぼやけた写真は撮ることができません。
上の図は、一眼カメラで撮影した写真と、スマホカメラで撮影した写真の比較です。一眼カメラで撮影したほうが、背景の金網がぼやけてみえますよね。
どうして一眼カメラでは背景がぼやけて、スマホでは背景がぼやけないのか不思議ですよね。なので今回は、「なぜ一眼カメラの写真は背景がぼやけるのか」について、光学の原理から説明します。
この記事で得られるもの
光学的な視点から「背景のぼやけ」ができる原理がわかるので、以下のことが手に入ります。
- 光学の原理がわかるので、カメラ選びの参考になる
- カメラ屋さんで見かける「フルサイズ」がなぜ「カメラの売り」になるのかわかる
- どうすれば好みの写真が撮れるのかわかるので、写真を撮るのがたのしくなる
答え:センサーが大きいから
どうして一眼カメラは背景がぼやけた写真がとれるのか?
いきなり答えを言ってしまうと、背景がぼやけた写真が撮れるのは撮像センサーのサイズが大きいからです。カメラに用いられるセンサーサイズは、カメラによって異なります。以下の図のように、カメラによってセンサーサイズは変わります。図の青色のところがセンサーです。
スマホでは約6mm×4mm程度(1/2.5″)の大きさのセンサー(図の右下)が使われ、一般的な一眼カメラのセンサーでは、24mm×16mm程度(APS-C)や36mm×24mm程度(Full Frame ※フルサイズと呼ばれる)のセンサーが使われます(図の右上)。一眼カメラのセンサーサイズは、スマホよりもずっと大きいんですね。
また、プロの写真家が使う中判カメラというものもあります(上の図の左上)。このカメラに搭載されるセンサーサイズは、家電量販店で売られている一眼カメラのセンサーサイズ(フルサイズ)よりも、さらに大きなセンサーが搭載されています。中判カメラで写真を撮影すると以下のようになります。
上記の写真は、富士フイルムのデジタル中判カメラのサイトから持ってきたものです。子供の手にピントを合わせると、子供の顔がぼやけて、手が浮いているように見えますね(ちょっと怖い……)。センサーサイズを大きくすると、こんな写真も撮れるようになりるんです。
つまり、カメラのセンサーを大きくするほど、背景のぼやけた写真が撮れるんですね。
でも、なんで背景のぼやけにセンサーの大きさが関係するの?
センサーサイズが「背景のぼやけ」と関係していると言われても、いまいちピンとこないですよね。「風が吹けば桶屋が儲かる」のように、「センサーサイズ」と「背景のぼやけ」のあいだを、順を追って理解していく必要があります。
簡単に書くと以下の通り。
センサーが大きくなると、レンズの焦点距離を大きくする必要がある。
レンズの焦点距離が大きいと、背景のピントずれが大きくなる。
よって、センサーサイズの大きい一眼カメラは、背景がよくぼやける。
なんのことかわからないですよね。なので以下の2つにわけて説明しますね。
- センサーが大きくなると、レンズの焦点距離を大きくする必要がある
- レンズの焦点距離が大きいと、背景のピントずれが大きくなる
センサーサイズと焦点距離の関係
まずは、「センサーが大きくなると、レンズの焦点距離を大きくする必要がある」について説明します。
さて、焦点距離とは何でしょうか。ここでは、「レンズがつくる像の大きさ」と思ってもらえればいいです。下の図のように、レンズは光を取り込み、レンズのすぐ後ろに「像」をつくります。その像の大きさが、焦点距離によって変わります。
簡単に言うと、焦点距離が小さければ小さい像(縮小された像)ができ、焦点距離が大きければ大きい像(拡大された像)ができます。
そして、このレンズがつくった像を切り取るのがセンサーの役割です。センサーが大きければ、像の広い範囲を写真として現像でき、センサーが小さければ、小さい範囲を現像します。
では、焦点距離(像の大きさ)とセンサーの大きさは、どのような関係性があるのでしょうか。ここで考えるポイントは「画角(撮影範囲)」です。
たとえば、大きな焦点距離のレンズに対して、小さなセンサーを搭載させた場合、撮影範囲が狭くなりすぎて、撮影したい対象がぜんぶ映らなくなってしまいます。これは、画角が狭い状態です。
撮影範囲を適切にするためには、センサーサイズに合わせてレンズの焦点距離も小さくする必要があります。下の図のように、焦点距離の小さいレンズをつかうと、レンズがつくる像も小さくなるため、小さいセンサーでも撮影される範囲は広くなります。
つまり、センサーが小さければレンズの焦点距離も小さくする必要があり、センサーが大きければレンズの焦点距離を大きくする必要があるんです。
センサーサイズと焦点距離は、比例の関係があるんですね。
だから、センサーサイズが大きい一眼カメラには、焦点距離の大きなレンズが必要なんです。
焦点距離とぼやけの関係
さて、大きなセンサーには、大きな焦点距離のレンズが必要だということがわかりました。続いて、「 レンズの焦点距離が大きいと、背景のピントずれが大きくなる。」について説明します。
「レンズの焦点距離の大きさ」と「背景のぼやけ」には、どういう関係があるのでしょうか。ここは、実際に光線図(光の筋を作図したもの)を見てみましょう。
背景である家のピントずれ量は、焦点距離の大きなレンズのほうが大きくなっていますね。数字にすると、レンズの焦点距離を2倍にすると、ピントずれ量は約4倍になります。そのくらい、焦点距離が背景のぼやけに影響しているんですね。
まとめ
まとめです。
センサーが大きくなると、レンズの焦点距離を大きくする必要がある。
レンズの焦点距離が大きいと、背景のピントずれが大きくなる。
よって、センサーサイズの大きい一眼カメラは、背景がよくぼやける。
以上が、一眼カメラで背景のぼやけた写真が撮れる理由です。カメラのセンサーが大きくなるほど、背景がぼやけやすくなること、理解していただけたでしょうか。
光学原理がわかると、写真を撮るのがもっとおもしろく、なりますよね。
余談
光学ズームとデジタルズームの違い
レンズの焦点距離が大きくなると背景がぼやけることを説明しました。これを踏まえると、一眼カメラの光学ズームと、スマホの電子ズームの違いがわかります。
光学ズームは、内部のレンズが動くことで、レンズの焦点距離を変えて、撮影対象を拡大や縮小させることです。つまり、拡大させるためにレンズの焦点距離を大きくするため、撮影された写真は背景がぼやけやすくなります。
一方で、スマホのデジタルズームは、レンズの焦点距離を変えずに、画像そのものを拡大させるものです。なのでデジタルズームでは、撮影される写真の背景はぼやけにくい(変わらない)ということになります。
一眼カメラの光学ズームと、スマホの電子ズームでは、背景のぼやけに大きな違いが出るんですね。
絞り値(F値)について
背景がどのくらいぼやけるのかについては、レンズの焦点距離だけでなく、レンズの絞り値(F値)も影響します。絞りを絞るほど背景はぼやけにくくなり、絞りを開けるほど背景はぼやけやすくなります。絞り値は下の図の①集光角度に関係し、焦点距離は②集光位置に関係します。
このように、「背景のぼやけ」はレンズの焦点距離(センサーサイズ)や、レンズの絞り値が関係します。よければ参考にしてみてください。