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【光学】なんで像が歪むの?

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この記事を読むと得られるもの
  • ・像の歪み(歪曲収差)の発生メカニズムがわかる
  • ・どうして単焦点レンズは「ダブルガウス」が多いのかわかる
  • ・光学原理がわかるので、レンズ選びが楽しくなる

このコラムについて

光学技術者が、カメラや光学技術に関する疑問にお答えします。原理を知るから、「もっとこうしたらいいんじゃない」とアイデアが出てくる。アイデアが出るからおもしろくなる。原理はおもしろさにつながっていると感じてもらえたらうれしいです。

なんでカメラで撮影した像は歪むことがあるの?

魚眼レンズで撮影した画像は歪んでいますよね。全天球カメラで撮影した画像や映像は像が歪んでいるのはよく見かけると思います。

でも実は、像が歪むのは魚眼レンズだけではなく、普通のカメラで撮影した画像も歪みが発生しています。

例えば下の図のように格子状の物体を撮影したとき、格子の周辺が丸みをおびた形に写るカメラがあります。これは像が歪んでいるからであり、この像の歪み方を「たる型」と呼びます。

また、逆に格子の周辺が尖ったように写るものもあります。この像の歪み方を「糸巻き型」と呼びます。

なぜこの像の歪みが発生するのでしょうか?
今回は像の歪みが発生する原因について、光学の原理から説明します。

答え:レンズ系が非対称だから

どうして像の歪みが発生するのか?

答えは「レンズ系が非対称」だからです。レンズ系が非対称とはどういうことでしょうか?
下の図を見てみましょう。

左側が非対称なレンズ系で、右側が対象なレンズ系です。両方とも2つの群のレンズ系となっていますが、右側は真ん中で鏡を置いたように対象となっている(完全な対象ではないですが)のがわかりますね。図の左側のように非対称のレンズ系になった場合、像の歪みが発生しやすくなります。

像の歪みが発生するメカニズム

ではなぜ非対称だと像の歪み(歪曲収差)が発生するのでしょうか?

この説明を理解するには、ひとつ前提知識が必要となります。それは、レンズの中心よりも、レンズの外側のほうが光はよく曲がってしまうということです。

下図のように、レンズの中心を通る線を「光軸」と呼びます。

光軸付近の光の集光位置を図示すると以下のようになります。

また、光軸から離れた光の集光位置を図示すると以下のようになります。

光軸近くの光と、光軸から離れた光の集光位置を比べたものが以下の図です。

光軸から離れた光の集光位置のほうがレンズに近くなっています。

つまり、「レンズの外側を通る光のほうがよく曲がる」のです。このレンズの外側を通る光のほうがよく曲がる、ことが像の歪みの原因となります。

これをふまえて、前述の凹凸タイプのレンズ系を見てみましょう。

ここでは、レンズに垂直に入射する光(オレンジ色で表示)ではなく、角度がついてレンズに入射する光(青色で表示)に注目します。前側の凹レンズに入射するときにはレンズの外側を通るため、光はよく曲がります。ここで、前側のレンズは凹レンズのため、光はより拡散する方向に曲げられます(図だと下側により曲がる)。その後、光は後ろ側の凸レンズに入射します。ここでも光はレンズの外側を通るため、光はより曲げられることになります。また、後側は凸レンズのため、光は集光する方向によく曲がります(図だと下側によく曲がる)。

つまり、凹凸タイプの場合、角度がついてレンズに入射する光(青色の光)は、前側の凹レンズ、後ろ側の凸レンズの両方とも、圧縮側(図の下側)によく曲げられることとなり、できる像は像の周辺が圧縮された、たる型と呼ばれる像の歪み(歪曲収差)が発生します。これは魚眼レンズと同じです。

続いて、凸凹タイプの場合を見てみましょう。

ここでも青色で表示した光に注目します。前側の凸レンズを通る場合でも、後ろ側の凹レンズを通る場合でも、光は膨張側(図の上方向)に光はより曲げられることになります。この場合、できる像は周辺が膨張(拡大)した糸巻き型と呼ばれる像の歪み(歪曲収差)が発生します。

さて、最後は対象型のレンズです。

ここでも青色で表示した光に注目します。前側の凸レンズに入射するとき、レンズの下側を通るため、光は図の上側により曲げられます。一方で後ろ側の凸レンズに入射するときには、レンズの上側を通るため、光は図の下側により曲げられることになります。前側レンズは膨張方向へ力が働きますが、後ろ側のレンズは圧縮方向へ力がかかるため、相殺されます。これにより、対称のレンズ系は像の歪み(歪曲収差)が発生しにくくなります。

これまで説明したレンズタイプと像の歪み(歪曲収差)の関係を下の図にまとめました。

像の歪みは、レンズ系が非対称であることで発生し、歪み方はレンズのタイプ(凹凸タイプか、凸凹タイプか)によって変わります。像の歪みはカメラレンズの中のレンズの配置によって変わるんですね。

じゃあ、なんでわざわざ非対称にするの?

ではなぜ、像が歪みが発生するのに、わざわざ非対称の光学系にするのか?

それは「無理難題を求められるから」です。例えばこんな感じに。

凹凸タイプを選択する場面

そしてこの無理難題の解決策は以下の通り。

この無理難題に応えるために、非対称系の凹凸タイプにするのです。

どうして非対称系の凹凸タイプにすると、レンズとセンサー間距離よりも、焦点距離のほうが短くできるのでしょうか。それを説明するためにまず、レンズが複数枚ある光学系での焦点距離を記述する方法を見てみましょう。

まず、レンズ系に垂直に入射する平行光を描きます。

次に、入射側と出射側の光束の外側に注目します。

その光束の外側の線を延長させます。

この延長させた先が交わるところに印をつけます。

この交点と、集光位置の距離がレンズが複数枚あるときのレンズ系全体での「焦点距離」となります。

そして、凸凹タイプの場合、レンズとセンサー間距離よりも、焦点距離のほうが短くなります。

つまり、レンズとセンサー間の距離よりも、焦点距離を短くしたい場合に、非対称系の凹凸タイプを選択するのです。

例えばカメラレンズの場合、焦点距離の短いレンズ(広角レンズ)は、この凹凸タイプを採用しているものが多いです。

凸凹タイプを選択する場面

では、凸凹タイプはどのようなときに選択するのか?

それはこんな無理難題を言われたとき。

そして、この無理難題を解決するのが凸凹タイプです。

なぜ凸凹タイプにすると、光学全長よりも焦点距離を長くできるのか。

その説明は以下の頭の通り。先ほどと同様に焦点距離を図示してみると、光学全長よりも焦点距離を長くできることがわかります。

つまり、凸凹タイプにすることで、光学全長よりも焦点距離を長くすることができるので、レンズを小型にできます。

凸凹タイプの例は以下の通り。

このレンズは、焦点距離が1200mmのため、普通に作ると1.2m以上のレンズになってしまいますが、凹凸タイプにすることで全長を537mmに抑えられています(それでも大きいですが)。

まとめ

まとめると以下のようになります。

レンズとセンサーの距離を保ちつつ、焦点距離を短くしたい場合は凹凸タイプ。
レンズサイズを大きくすることなく、焦点距離を長くしたい場合は凸凹タイプ。
ほどよい焦点距離の場合は対称系(凸凸タイプ)。

を選択すればいいんですね。

結論

結論です。

結論

像の歪みは、レンズの非対称性が原因。

レンズの非対称性は、無理難題を言ってくるから。

いかがでしたでしょうか?

原理を知ることで、カメラ撮影やレンズ選びが少しでも楽しくなればうれしいです。

おまけ:像の歪みはどうやって補正する?

像の歪みは補正できないの?

では、レンズ系が非対称になった場合、像の歪みは補正できないのでしょうか?

答え

できます。

お金をかければ像の歪みをほせいできるのです。もう少し詳しく言うと、お金をかけて非球面レンズをつかったり、レンズ枚数を増やしたりすれば、非対称系であっても像の歪みは補正できるのです。

例えば、プロジェクターのなかでも、超短焦点プロジェクターという壁の近くから大きな映像を投影するものがあります。あれは凹凸タイプのレンズを採用していますが、プロジェクターで投射する映像が歪んでは困るため、歪まないようにたくさんのレンズや非球面レンズを使いながら、歪みを補正しています。

ズーム機能なし(単焦点)にも関わらず、レンズを20枚も使用して、さらには非球面レンズも何枚も使っています。一般的な単焦点レンズに比べるととても多くのレンズを使用して高価なレンズになっているのです。お金をかければ像の歪み問題を解決できるのです。

結局、世のなかはお金なのです。

いかがでしたでしょうか。レンズメーカーのサイトでは、カメラレンズの中身の図面が載せられていたりします。これを見ても通常は「図面見せられても」と思ってしまいますが、上記の知識を知っていると少し興味を持ってメーカーのサイトをながめることもできるかもしれませんね。