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【今週の気づき】お気に入り戦略

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【今週の気づき】とは、社内風土改革と称して勝手に始めた社内メルマガ(執筆は業務時間外)の内容を、社外秘を含まないよう一部加筆修正してブログ化したものです。

人はなぜ絵を買うのだろうか。

絵は何もしてくれない。パンも焼けなければ、掃除もしてくれない。遊び相手にもなってくれなければ、スキルや知識を教えてくれない。ではなぜ人はお金を払ってまで絵を買うのだろうか。今回は絵をきっかけに人が何にお金を使うか考えてみた。

ミュシャ展に行った

先週末、松本美術館で開催されている「みんなのミュシャ」という展覧会に行ってきた。これまで美術やアートをわざわざ観に行くことはなかったのだが、間違えて多くチケットを買ってしまったという友人からチケットを1枚もらったので、観てみることにした。
(ミュシャとは、1800年代後半から1900年代前半に活躍した、チェコ出身のグラフィックデザイナー、イラストレーター、画家である。)

美術館内にある展示会場の入り口では、作品の背景情報を説明してくれる音声案内のヘッドホンのレンタルがあった。僕はミュシャの予備知識が無かったのでレンタルすることにした。展示会場に入るとミュシャの作品や習作(下書きみたいなもの)、ミュシャに影響された現代作品などが数多く展示されていた。ヘッドホンから流れるミュシャの生い立ちや、出世作のストーリー、絵の特徴、構図の先進性、ミュシャの絵を参考にした現代美術の説明を聞きながら、作品を見て回った。

展示されていた作品の中で特に印象的だったものがひとつあった。ミュシャの作品は背丈くらいある大きくて色鮮やかなものが多いが、僕が気になったのは5センチ角ほどの小さな、単色で描かれているものだった。その作品に描かれた女性はミュシャのどの作品よりも目が大きく描かれていた。今でこそイラストや漫画で人物の目を大きく描くのは当たり前になっているが、この時代に目を大きく描くのは異端だったのではないか。現在の漫画に通じるもの強く感じる作品だった。

鑑賞後は美術館の1階にあるグッズ売り場へ。売り場では多くの人がミュシャグッズを手に取り、選び、買っていた。僕は上述の展示会場で気になった絵を探し回ったが、未発表の作品だったためか売られていなかった。絵を買いたいと思うなんて生まれて初めてのことだった。何の役にも立たないと思っていたはずの絵を買いたいと思っていたのだ。

(買いたいと思った絵。Webから参照)

ものを買う動機

ものを買う動機には大きく「お得だから」と「気に入ったから」の2つあるように思う。

「お得」というのは、
「同じ機能のものを少しでも安く」
「値段が同じであればより高機能のものが良い」
ということ。
少しでも安く、少しでも多く、少しでも高機能なものを、という損得勘定だ。誰が見てもお得だとわかる基準があること。それがお得だからという動機。

一方で「気に入った」から買うという動機は、
「なんでそんなもの買うの?」
「なんでそんな高いもの買ったの?」
と人から思われるものだったりする。
1,000円の腕時計で十分なのに10万円のものを買う。
通勤に使う車であれば中古車や軽自動車で十分なのに、新車のSUVを買う。さらにルーフレールの色や、タイヤホイールを変えるオプションに数十万円を払う。
視力の矯正なら5,000円のメガネで十分なのに4万円のメガネを買う。

他人には理解されにくいが、なぜか自分の心には刺さるもの。それが気に入ったから買うという動機。絵を買うというのもこの動機だろう。

人間本来の動機

思えば子供の頃は、意味もなくお気に入りのものを集めていた。決して使うことのないキャラクターの消しゴム。どこで拾ったのか、買ったのかわからない貝の化石。何色あるかわからない大量の色鉛筆。
お気に入りのものを欲しがるというのは人間に初めから備わった動機なのだと思う。それは大人になっても変わらない。「お得動機」と「お気に入り動機」、これまでの人生でより多くのお金を使ったのはどちらの動機か。僕の実感から言うとお気に入り動機である。そしてその比率は年々増えていると思う。

お得戦略とお気に入り戦略

これまでの多くの企業の戦略はお得だからという動機で買ってもらう「お得戦略」だった。安さという誰が見てもわかる基準で訴求するほうが、気に入ってもらうよりも簡単だと(お金をかけずに売れると)思うからだろう。しかし実際に人がお金を多く使うのは「お気に入り」のものである。だから取るべき戦略は「お得戦略」ではなく、「お気に入り戦略」なのだと思う。ではどうすればお気に入りになれるのか。
今回ミュシャ展に行き、お気に入りになった作品は、目の大きく描かれた作品だった。これは他のミュシャの絵よりも独特なもの(偏り)を感じたものだ。同時に、当時の時代背景を想像し、「異端」や「ハミダシ」といったものも感じた。お気に入りになるには、こうした「独特(偏り)」や「異端」、「ハミダシ」がひとつの要素になるのだろう。
他にも「お気に入りに」になるための要素はいくつもあるのだと思う。自分のお金と時間をどんなお気に入りの要素に使っているのか。改めて考えてみたい。