【今週の気づき】とは、社内風土改革と称して勝手に始めた社内メルマガ(執筆は業務時間外)の内容を、社外秘を含まないよう一部加筆修正してブログ化したコラムである。
今後、オフィスのカタチはどうなっていくのだろうか。
この1年で会社のあり方、オフィスの意味は大きく変わった。東京では在宅勤務が基本となる会社もあり、オフィスは不要だと言われることもある。今後、これらの変化はどうなっていくのだろうか。
そんなことを考えつつ、ふと腕を見ると、お気に入りの腕時計をしている。2015年に自分へのご褒美で買った、機械式のちょっといい腕時計だ。一日で5秒くらいずれるし、つけてないと止まってしまう。不便なものだが、気に入って身に着けている。
腕時計は時刻を知らせるためのものである。ただし、正確な時刻を知るだけならスマホで十分だし、どうしても腕に時計をつける必要があるとしても、1,000円の時計で事足りる。高価な腕時計は必要ない。では、どうして人は不要な腕時計をするのだろうか。
不要だと言われているオフィスと、不要だけどつけている腕時計。これらの共通点はなんだろうか。ということで、今週は腕時計からオフィスの未来について考えてみた。
人視点で考える
人がモノやサービスを買うときの動機は3つに分類されると思っている。それは、「必要」「便利」「満たされる」である。生活になくては困る必需品や薬など、無いと困るから、しょうがなく買う「必要」なもの。手間を省いてくれたり、作業負荷を軽減してくれたりと、生活が楽になるから、頑張って買う「便利」なもの。必要でもないし、便利でもないけど、気に入ったもの、欲しいと思うから、喜んで買う「満たされる」もの。この3つである。
これらの3つの動機のうちで、人間にとって最も根源的な動機はなにか。それは子供を見るとよくわかる。子供はお金を、おもちゃやゲームなど、「満たされる」ものにしか使わない。「必要」だから「便利」だからでお金は使わないのだ。それは大人も同じだ。大人もできるだけ「必要」なものにお金をかけず、できれば「満たされる」ものにお金を使いたいと思うのが本音だろう。人は「満たされる」ものに時間とお金をかけたいものなのだ。
製品視点で考える
では、製品視点で「必要」「便利」「満たされる」を考えるとどうなるか。セイコーが1969年に発売した世界初のクオーツ腕時計は45万円だったという。当時の大卒初任給が3万4千円だったというから相当な高級品だ。1日のうちに生じる誤差が0.2秒以内の精度の時計を身に着けられるのは、当時はとても「便利」だっただろう。
「便利」なものは高い。高いから買える人が限られてしまう。だから「便利」なモノを一般に普及させるには価格を下げる必要がある。そこで求められるのが、無駄を徹底的に省く効率化と、大量生産による低価格化だ。価格が下がることで、一般に普及するようになり、人々にとって「便利」なものから「必要」なものに変わるのである。
しかし、いつもまでも必要とされるわけではない。新しい技術ができれば、今まで必要とされていたものは、不必要なものになる。そのときに求められるのは「必要」から「満たされる」への変化だ。
ただ、「必要」から「満たされる」への変化は簡単ではない。なぜなら、求められるのは「便利」から「必要」への変化とは真逆の変化だからだ。つまり、効率を求めず、無駄を取り入れることで「満たされる」に変わるのである。人間は無駄がなく効率的に、大量に作られたものでは満たされない。無駄があるから目に止まる。無駄があるから欲しくなる。人間は非効率で洗練された無駄に満たされるのである。
腕時計で言えば、
無駄な重厚感(軽い方が負担がない)、
無駄な装飾(シンプルな方が見やすい)、
無駄な機械式(電波時計の方が正確)、
などである。
時計本来の機能である、「正確な時刻を知らせる」に不要なものを加えることで、「満たされる」ものへ進化できるのだ。
オフィスの未来
おそらくオフィスも昔は「便利」なものとして建てられ、それが普及することで「必要」なものに変わったのだろう。そして、ずっと「必要」だと思われていたオフィスは、コロナによるリモートワークの普及で、無くても大丈夫だと言われるようになった。
では、オフィスはこのまま無くなるのだろうか。おそらく、これまで通りの「必要」なオフィスは無くなっていくだろう。そして、今後求められるのは、効率的に働くためのオフィスではなく、その場に行くと「満たされる」オフィスだ。
非効率的に、無駄を設計したオフィス。意思とコンセプトのある無駄を入れたオフィス。「満たす」ために作られたオフィスが今後残るだろう。
そうなれば当然、求められるオフィス機器も変化する。これまで通りの、無駄を省き、効率化を実現するためのオフィス機器は衰退する。今後求められるのは、無駄をつくるためのオフィス機器である。